金属は一般的に、熱を加えて急冷することで結晶が微細化して硬化します。鉄鋼の焼入れはその原理を利用した技術です。でも、急冷することで脆くなってしまいますから、脆さを解消するために熱処理では 「焼き戻し」といって急冷後に再度、比較的低い温度で焼き入れを行います。
ベーキング処理:メッキ後の水素脆性の除去や皮膜硬化のために
これで靭性(じんせい)を復活させ、さらに「焼きならし」と「焼なまし」という工程を経て、硬くて粘りのある鉄鋼ができ上がります。
金属は熱だけでなく、外部から加えられる力によって変形し、硬化する性質もあります。これを「加工硬化」といいます。加えられたカによって結晶格子が転位を中心にして変形する、そのときに元に戻ろうとするカ=応力か働いて硬さを向上させるのです。
無電解ニッケルーリンメッキ皮膜はNi(ニッケル)とP(リン)の非晶質合金です。その析出時のNiとPはある一定の比率(Pの割合が2 ~15 % )で合金化しています。無電解ニッケルメッキの Ni-P皮膜はメッキ析出時、HV500 ~~550の硬さですが、400 ℃で熱処理すれば結晶化して、HV800 ~~1000という硬い皮膜に硬度が高まります。これを「析出硬化」と呼びます。ただ、熱処理によって硬くなった皮膜も、 300℃以上で使われ続けると急激な硬度低下が起きます。
硬質クロムメッキのメッキ析出時の硬さはHV800 ~1000ですが、それは皮膜中に水素を吸蔵しているからでもあります。そのような皮膜を熱処理するとどうなるのでしようか。
水素が抜ける温度180~200℃で2時間 ベーキング処理すると硬さや耐摩耗性はさほど低下しないで表面状態を保つことができます。温度をこれ以上高く(300℃以上)で処理すると急激に硬度の低下が起こり、耐摩耗性も低下します。
このように適正な温度で熱処理をすると、水素脆性の除去やメッキ皮膜硬度が高まり耐摩耗性がよくなりますが、適正外の温度で処理したり、使用温度であったりすると、皮膜の結晶構造が変化し、思った性能を確保できないことも起こります。処理温度や製品が使用される温度なども処理前に打ち合わせし、確認すると良いでしょう。
参考文献:機能めっき 基礎のきそ プレーティング研究会【編】