メッキ加工法以外の表面処理法
素材表面に有機化合物を被覆する方法
塗装(とそう)とは?
塗装とは、金属や木材、プラスチックなどの表面に「塗料(とりょう)」を塗って、色を付けたり、保護したりする加工のことです。塗ったあとにできる薄い膜のことを「塗膜(とまく)」といいます。
主な塗装方法
塗装にはいくつかのやり方があります:
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吹き付け塗装:スプレーで塗料を吹きかける方法。
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静電塗装:静電気の力で塗料を均一に付ける方法。
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粉体塗装:粉状の塗料を静電気で付けてから加熱して定着させる方法。
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電着塗装:水に溶かした塗料の中に部品をひたし、電気を流して塗料をくっつける方法。
これらの方法は、家電や自動車、機械の外装や部品など、さまざまな製品に使われています。色や仕上がりの質感、機能(耐久性・防サビなど)も選ぶ塗装方法によって変えることができます。
メッキとの違い
塗装とよく似た加工に「メッキ」がありますが、両者には大きな違いがあります。
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メッキは、金属の膜を表面にコーティングする方法で、電気を通します(導電性あり)。
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塗装は、金属ではない塗料を塗るので、基本的には電気を通しません(導電性なし)。
たとえば、見た目が金メッキのようにピカピカしていても、それが「金色の塗装」であれば、電気は通りません。外見だけでは判断できないので、用途によって使い分ける必要があります。
ホットスタンプ法とは?
ホットスタンプ法(別名:箔押し印刷)とは、加熱した金型(凸版)を使って、金色や銀色などの装飾用の箔(はく)を印刷物やプラスチック製品などに転写(てんしゃ)する加工方法です。主にメタリックな光沢やカラフルな装飾を加えたいときに使われます。
使われる「箔(はく)」について
ホットスタンプに使う箔は、次のような構造になっています:
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ポリエステルフィルム(台紙)
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その上にアルミニウムの薄膜(真空蒸着でつけられた金属の層)
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最後に、物にくっつくための接着層(のりのような層)
加工の仕組み
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箔を転写したい物(たとえばプラスチック)に重ねます。
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箔の上から**加熱した凸版(とっぱん)でプレス(押す)します。
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熱と圧力で箔がくっつき、金属的な模様や文字が転写されます。
特長と用途
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キラキラ光る金属調の仕上がりが簡単にできます。
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インクを使わずに印刷できるので、にじみや乾燥の心配がありません。
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単純な形のプラスチック製品に向いており、商品ロゴやデザインを美しく仕上げたいときに使われます。
たとえば、おもちゃのロゴ、化粧品のパッケージ、ギフト箱の装飾などによく使われています。「金メッキのように見えるけど、実はホットスタンプだった」というケースも多いです。
金属素材表面を僅か溶解させ異種金属との合金や化成皮膜を形成改質する方法
表面を改質する方法(化成処理・置換メッキなど)
金属の表面をほんの少しだけ溶かすように化学反応させることで、異なる金属と合金化したり、特別な皮膜をつくって性能を高めたりする方法があります。このような処理は、部品の耐久性や防錆性能を高めたり、塗装やメッキの下地として使われたりします。
主に以下の2つの方法に分けられます:
① 化学反応による「無電解処理(むでんかいしょり)」
電気を使わず、処理液に部品をひたして化学反応だけで皮膜をつくる方法です。
主な処理方法:
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亜鉛置換処理
鉄などの金属の表面に、溶液中の亜鉛が置き換わってくっつく処理。防錆に効果があります。 -
リン酸塩皮膜処理
鉄の表面にリン酸塩の皮膜をつくり、塗装ののりをよくしたり、サビを防いだりする処理。機械部品や車体の下地処理によく使われます。 -
クロメート処理(3価クロム化成処理)
亜鉛やカドミウムメッキの上に、クロム化合物の皮膜をつくって**耐食性(サビにくさ)**を高めます。
② 電気を使って行う「電解処理(でんかいしょり)」
処理液にひたした状態で電気を流し、化学反応をコントロールしながら皮膜をつくる方法です。
主な処理方法:
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電解クロメート処理
電気の力を利用して、より均一で高耐食なクロメート皮膜をつくります。 -
陽極酸化(ようきょくさんか)
アルミやチタンなどに電気を流して、表面に強い酸化皮膜をつくる方法です。 -
アルマイト処理(陽極酸化の一種)
アルミ製品に使われ、表面を硬くし、キズやサビに強くする処理。カラー加工も可能です。電化製品や自転車部品などに使われています。
まとめ
これらの表面改質処理は、
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防錆性の向上
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塗装やメッキの密着性アップ
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耐久性・耐熱性・絶縁性の向上
など、製品の寿命や性能を大きく向上させるためにとても重要な技術です。
① 金属表面に特定の元素をしみこませて硬くする方法
(表面改質:浸炭、窒化、浸硫など)
金属の表面に炭素・窒素・硫黄などの元素をしみこませて、表面を硬く・強くする処理方法です。主に鉄や鋼(はがね)製の部品に使われます。
主な方法と特徴:
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浸炭処理(しんたん):炭素を金属表面にしみこませて、硬くします。
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窒化処理(ちっか):窒素を使って表面を硬化。熱変形が少ないのが特長。
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浸硫処理(しんりゅう):硫黄を加えて表面の摩擦特性を改善します。
これらの処理は、「ガス」や「塩浴(溶けた塩の中に入れる方法)」を使って行います。
注意点:
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メッキと違って高温で処理するため、部品が変形したり寸法が変わることがあります。
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安定した品質を保つには、他の表面処理(例:メッキや化成処理)と**組み合わせる(複合処理)**ことも重要です。
② 熱を使って金属の表面を硬くする方法
(焼入れ・高周波焼入れなど)
金属に熱エネルギー(火や電気など)を与えて、表面だけを変質・硬化させる方法です。これも表面改質処理の一つです。
主な方法:
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一般焼入れ:全体を高温に加熱し、急冷して硬くする方法。
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高周波焼入れ:電磁波で表面だけを加熱して硬化させる方法。内部はやわらかいままなので、粘りと硬さの両立ができます。
これらは、部品の強度が必要な部分にだけ熱を当てて加工するので、素材のムダが少なく効率的です。
まとめ:目的に応じた表面処理の選択が大事
金属の表面処理にはたくさんの方法がありますが、「硬くしたいのか? 錆びにくくしたいのか?」「寸法の変化を避けたいのか?」など、目的によって最適な処理方法が変わります。
また、1つの処理だけでは足りない場合は、**複数の処理を組み合わせる(複合処理)**ことで、より高い性能・安定した品質を実現できます。
様々な表面処理法 | 主な目的 |
ブラスト処理・ホーニング処理・液体ホーニング | スケールの除去・錆の除去 |
化学エッチング・電解エッチング・乾式エッチング | 表面形状の創生 |
印刷 凸版印刷、凹版印刷、平板印刷、孔版印刷 |
表面加飾 |
研磨 機械研磨・化学研磨・電解研磨 | 平滑光沢化 |
PVDコーティング・DLCコーティング・CVDコーティング・溶射・ドライコーティング スパッタリング: ターゲット材に高エネルギーのイオンを衝突させ、発生した原子を基材に堆積させる処理です。 CVD: 気相中の物質を化学反応させて基材上に薄膜を形成する処理です。 |
表面改質・表面硬化 |
表面処理を選ぶ際のポイント
- 目的: 耐食性、耐摩耗性、耐熱性、導電性、絶縁性、外観など、どのような特性を付与したいか。
- 基材: 処理する素材の種類や形状。
- 環境: 使用される環境(温度、湿度、化学物質など)。
- コスト: 処理費用や設備投資費用。
まとめ
メッキ以外の表面処理は、その種類が多岐にわたっており、それぞれ特徴や用途が異なります。製品の要求される性能やコストなどを考慮し、最適な表面処理方法を選択することが重要です。
参考文献:めっき加工のツボとコツ 星野芳明 著